研究課題
基盤研究(B)
近年、重粒子を用いたガン治療の進歩が著しい。本研究では、重粒子の物理・化学作用の実験測定と理論計算による検討とともに、ビーム可視化新技術の開発を目的としている。前者については放射線医学総合研究所のHIMAC施設から得られるGeV級重粒子、He 150MeV/u、C 290MeV/u、Ne 400MeV/t、Si 490MeV/u、Ar 500MeV/u、Fe 500MeV/uの入射エネルギーでの水分解のG値測定を行った。各々重粒子のLETは2.2、12.8、30.3、54.9、93.2、185keV/□mである。さらに、捕捉剤濃度を変えることにより、捕捉反応時間を調節しトラック反応の時間挙動の解明も試みた。重粒子のLET増加に伴い、ラジカル収量は減少し、分子生成物収量が増大することを実験的に決定した。重粒子の形成するトラック構造のパラメータとしてLETは必ずしも適切なパラメータではなく、新しいパラメータを模索している。さらに、水分解のスパー拡散モデルと最近のモンテカルロ法による理論計算を開始した。スパー拡散モデルの計算コードを構築し計算を開始した。実験を再現するためのイオンビームごとにトラック構造はかなり異なる。モンテカルロ法についてはカナダのシャーブルック大学のグループとの共同研究である。予備的な結果では、モンテカルロ計算の結果は実験をかなり精度よく再現するように見受けられる。ビーム可視化技術開発については、メチルビオローゲンとアガロースを用いたゲルのシステムを照射し、ビームの飛跡を青く着色することに成功した。しかし、時間経過とともに着色を与えるメチルビオローゲンラジカルカチオンの拡散が進み、照射と非照射の部位の区別が不明瞭になる問題が生じる。