本研究は、ナノ領域の振動スペクトルを空間選択的に得ることを目的とし、測定システムの開発を行うと同時に、システムの動作確認のための分子系の開発も行った。測定システムは、走査型プローブ顕微鏡とラマン分光計を組み合わせたものである。ラマン励起は488nmの半導体レーザーにより行い、検出器には冷却型電荷結合型素子を用いた。走査型プローブは、白金イリジウム合金ワイヤーを機械的に先鋭化させ、その表面に化学的還元反応により銀をめっきして作製した。プローブ先端の銀粒子の大きさは電子顕微鏡観察により100-300nmであることを確認した。空間分解能を調べる標準試料を検討するため、レーザーを用いたナノ構造体作製に取り組んだ。最初にペリレン誘導体に355nmのパルスレーザーを照射しナノ構造体の作製を試みたが、ポリインなどの副生成物が生成することが明らかとなった。チオフェン誘導体を用いた場合には、光重合反応によって空間選択的高分子化が起こることを確認した。これを利用して導電性ポリチオフェンからなるグレーティング構造体を355nmのレーザー光の干渉パターン照射により作製した。最適条件では線幅約2μm、間隔約3μm、高さ平均200nm程度の格子ができた。この構造体について、表面増強ラマンスペクトルの測定を行った。チオフェン環の伸縮に帰属される1400-1550cm^<-1>の平均シグナル強度について10x10点のスペクトル強度マッピングを行ったところ、グレーティング構造を明瞭に確認できた。最終的に50nm程度の分解能があるということを示唆するデータが得られた。
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