MBE法を用いてHOPG(0001)基板上に堆積したフラーレン単結晶薄膜を対象とし、走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針によるフラーレン分子の脱離、ならびに重合を試みた。 1)脱離反応 サンプルバイアス(Vs)3V、トンネル電流(It)50pAの条件で繰り返し測定したところ、フラーレン薄膜からC60分子の脱離が観測された。様々なVsにおいて脱離するC60分子の個数を調べたところ、Vs=2Vを閾値とし、それ以上のVsで脱離反応が起こることが判明した。また、Vsの増加に伴い脱離分子数は増大した。C60分子はフェルミエネルギーから2eV離れた所にLUMO+1(LUMOの一つ上の軌道)が存在することから、LUMO+1の波動関数と探針の波動関数との重なりにより結合性軌道を作り、C60が脱離するものと考えられる。 2)重合反応 Vs=2.5V、It=50pAの条件において繰り返しスキャンしたところ(室温)、C60分子が暗く観測される部分が出現した。これは、トンネル電流により、最表面のC60分子と第2層のC60分子が結合し、分子間距離が短くなったためと理解できる。また、重合した分子には内部構造が観測され、C60分子の回転が停止していることを意味している。 トンネル電流によりC60分子の結合が起きる閾値は2.3eVであったが、この値は光重合の過程で起こる電荷移動(CT)励起子過程に必要な2.4eVよりも小さい。従って、隣接する2つのC60分子の片方のLUMO軌道にトンネル電子が入り、C60分子間の結合が起きるものと推察される。また、低温(77K)においても同様の実験をVs=-3VからVs=3VまでVsを変化させて測定したが、結合生成、脱離ともに観測されなかった。77Kでは、C60分子の自由回転が停止していることが知られており、上記反応がC60分子の自由回転と関係していることを強く示唆する。
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