研究概要 |
シリコン基板を用いた分子認識チップのプロセス技術の確立を目的としていたが、様々な不安定性を取り除くことが困難であったため、本年度は、石英などのガラス基板を用いた分子認識バイオチップのプロセス技術の確立を行った。またバイオ分子と材料界面の相互作用を評価することを目的として、種々の生体適合性バイオマテリアルの新規合成を行い、細胞やたんぱく質の吸着特性の評価を行った。まず、チップのプロセス技術の確立については、石英基板にナノ流路を形成し、キャピラリーゾーン電気泳動法(CZE)によるDNA分離をマイクロチップで行うことを試みた。電気浸透流の制御は、表面ζ電位を変化させることにより行った。表面ζ電位の制御方法としては、DNAがナノ流路内壁へ付着することを抑制し、かつ表面電位を制御できるリン脂質ポリマーを新規合成して行った。合成したポリマーの生体適合性を、FITC標識アルブミンタンパク質で評価したところ、どれも石英基板に比べてタンパク質の吸着量が減少し、生体適合性に優れた表面であることがわかった。また、ζ電位を、0mV〜-60mVまで変化させることができた。まず、合成したポリマーの特性評価のため、通常のCZEを用いてT4DNAと1DNAを分離する最適条件を検討した。ここで用いたポリマーは、poly[2-methacryloxyethylphosphorylcholine (MPC)-co-n-butyl methacrylate (BMA)] (PMB30, MPC 30 mol%), poly(potassium 3-methacryloyloxypropyl-sulfonate (PMPS) -co-MPC-co-BMA (PMSB, MPC 45 mol%), poly[(MPC)-co-3-metacryloxypropyltrietoxysilane (MPTES)] (PMSi, MPC 90 mol%)とである。これらのポリマーの中で、石英基板に化学的に修飾させたPMSiだけが、CZEで再現性のあるDNA分離が可能となった。この結果からマイクロ・ナノ空間で生体物質を高速で輸送する際には、基板とポリマーの密着性に優れるものが必要であることがわかった。また、分子認識バイオチップとしての基板としてガラスだけでなくポリマー系の基板を用いることを想定し、ポリマー用リン脂質ポリマーの新規合成を行った。さらに、ナノ空間で使用するポリマーにおいては、分子量の乱れの少ない特性が必要となる。そのため、リビングラジカル重合によりポリマーの高精密合成を行った。今後これらのチッププロセス技術と高精密ポリマー界面創製技術を融合させて、電気化学的にDNA分離を行う分子認識バイオチップを創製してゆく予定である。
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