光エネルギーを用いて無尽蔵な水を分解し水素を製造する技術は、環境問題とエネルギー問題の両方を解決できる策として重要視されている。この分野では、二酸化チタンを用いた本多・藤嶋効果がパイオニアであるが、残念ながら二酸化チタンは可視域に感度がなく、またp型ができないためバイアス無しでは水素の発生は困難であった。本研究は、p型が作製可能で、しかも可視域に感度を持つInGaNを半導体光電極材料に用いることにより、太陽光で水を完全分解して水素を効率よく発生させることを目的とする。さらに電極表面をInGaN量子ドットで覆ったナノ構造を用いることにより、分解効率をさらに向上させることを目指す。今年度は、窒素物半導体を用いた光電極の動作原理を解明するため、まずGaN半導体光電極を検討した。 1.窒化物半導体光電極の作製 半導体光電極で、光励起で生成したキャリアが効率よく輸送されるためには、オーム性低抵抗電極の形成が不可欠となる。まず、n型GaN(Siドープ)およびp型GaN(Mgドープ)をサファイア基板上に有機金属気相成長法で作製し、その上に、オーム性低抵抗電極の形成を試みた。n型電極としてAl/Au、p型電極としてNi/Auを用いることにより、低抵抗オーミック電極の形成を確認した。 2.GaN半導体光電極の原理確認 作用極にn型あるいはp型GaN、対極にPt、参照極にAg-AgCl、電解液に中性のNa_2SO_4(1M)を用い、GaN電極を光照射した場合の、電極電位と光電流の関係、および光電流スペクトルの測定を行った。n型、p型ともバンドギャップ近傍で光電流が立ち上がり、短波長にいくほど、表面励起の寄与が大きくなり光電流は増加した。p型は、n型と比べ、キャリア濃度が約40分の1と小さいため、バンドベンディングが緩やかで光電流の量子効率は低いが、ゼロバイアス時の光照射で水素の発生が確認された。このことは、GaNの伝導帯端のエネルギーが、ワイドギャップのため水素発生電位よりも高いことを意味している。n型アノード電極では光溶解が観測されたのに対し、水素発生のp型カソード電極は安定であった。以上の成果を下記の講演会で報告した。 1、第65回応用物理学会(2004年9月3日、東北学院大学)森田他 "GaN半導体光電極" 3p-ZL-6、講演予稿集p.1292. 2、農工大・電通大21世紀COEプログラム合同シンポジウム「ナノ未来材料とコヒーレント光科学」(2004年12月10日、電通大)森田他 "GaN半導体光電極"合同シンポジウム予稿集p.35.
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