研究概要 |
本計画の目的は、血管疾患の病態形成において重要な役割を果たす因子(病態因子)を、プロテオミクス手法(質量分析法中心)を用いて単離・同定することである。また、結晶構造解析で作用機序の物理化学的な基盤を明らかにする。さらに、病態因子が関わる新規な病態機序に基づく診断法ならびに治療法を開発する。 KLF5は心血管系における刺激(外的)に対するリモデリング反応を司る機能を有する因子である。同因子は胎児性プロトオンコジーンであり、病態で発現が再誘導される。血管のバルーン傷害後等にみられる新生内膜細胞ではKLF5の発現が誘導され、細胞の異常増殖等を促進すると考えられる。KLF5は心血管系の病態形成においてもっとも重要な転写因子のひとつと現在位置付けられる。KLF5を用いた相互作用因子のプロテオミクス探索を行い、転写抑制因子SETの単離に成功した(Suzuki et al., 2003, J Biol Chem, Mol Cell Biol)。本年度は、SETの結晶構造を解析し、結晶作製に成功し、2.8オングストロームの解像度の回折像を得た(Muto et al., 2004&submitted)。また、SET以外の他の相互作用因子も同定し、機能解析を行った(Munemasa et al., in preparation)。 KLF5はアセチル化修飾を中心にアセチル化酵素p300及びアセチル化阻害因子SETにより正負に制御される(Suzuki et al., 2003)。脱アセチル化酵素HDAC1の作用機序について検討した結果、HDAC1はKLF5のDNA結合活性を阻害し、またPDGF-A鎖の遺伝子発現を抑制し、さらにKLF5への相互作用においてp300と競合することを示した。脱アセチル化酵素が、酵素活性の他に、DNA結合活性の阻害、さらにアセチル化酵素との物理的な競合という直接的な作用を有することをはじめて示した(Matsumura et al., 2005)。今後、アセチル化修飾を中心とした制御の治療戦略を開発する。 上記のKLF5の研究を通して、転写因子の相互作用ならびに化学修飾による制御を明らかにした。とくにクロマチンの制御での局面の新規メカニズムが重要であり、これらのメカニズムの全貌が理解できるようなレビューも発表した(Suzuki et al., 2005 ATVB, Trends Cardiovasc Med)。
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