本研究は、血管病態の機序解明及び診断と治療法の開発を目的に、プロテオミクス手法と結晶構造解析等の方法を用いて、重要な病態関連因子を解析することが目的である。 KLF5は心血管系における刺激(外的)に対するリモデリング反応を司り、胎児性プロトオンコジーンであり、病態で発現が再誘導される。血管のバルーン傷害後等にみられる新生内膜細胞ではKLF5の発現が誘導され、細胞の異常増殖等を促進すると考えられる。KLF5は心血管系の病態形成においてもっとも重要な転写因子のひとつと現在位置付けられる。 KLF5を用いた相互作用因子のプロテオミクス探索を行い、転写抑制因子SETの単離に成功した。本年度は、SETの結晶構造を解析し、結晶作製に成功し、2.8オングストロームの解像度の回折像を得た。 また、KLF5はアセチル化修飾を中心にアセチル化酵素p300及びアセチル化阻害因子SETにより正負に制御されることを明らかにした。脱アセチル化酵素HDAC1の作用機序について検討した結果、HDAC1はKLF5のDNA結合活性及び転写活性化能を阻害し、KLF5への相互作用においてp300と競合することを示した。 更に、KLF5の抗アポトーシス作用ついて明らかにした。KLF5にアポトーシス活性、KLF5とアポトーシス反応において中心的な役割を果たすポリ(ADP-リボース)合成酵素(PARP-1)との相互作用を認めた。この相互作用は、アポトーシス条件下に誘導されるKLF5のアセチル化修飾により制御を受けた。PARP-1の特異的な阻害(sequestration)によるアポトーシスの選択的な制御を示したはじめての知見であった。また、相互作用と化学修飾のカップリングによる新しいメカニズムであった。 これらの知見を生かし、血管病態の新しい作用機序にに基づいた新しい治療戦略を開発する目的での臨床応用展開研究を行なっている。
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