本研究は、生体内翻訳装置の、機能構造を探り分子工学的改変により真核タンパク質に適した翻訳系構築に利用するのが目的である。3年間で、以下の成果があった。 1.リボソームGTPaseセンター構成タンパク質複合体の機能構造解析:真核ではPOに2個のP1-P2ヘテロダイマーが隣接して結合した5量体を形成する。真正細菌ではL10に2〜3個のL12ホモダイマーが結合し、種により異なる。古細菌ではPh-P0タンパク質にPh-L12ホモダイマーが一般に3個隣接して結合することを生化学的分析とX線結晶構造解析により明らかにした。いずれの種でも、結合するホモダイマーの数を減らすことで、GTP加水分解と翻訳伸長反応を抑制することが判明した。 2.昆虫ウイルス(PSIV)IRESによるタンパク質合成開始機構の解析:PSIV-IRESによる翻訳開始因子非依存的な翻訳開始の仕組みを探り、効率的な翻訳系に利用する目的で、解析を行った。その結果、IRESはリボソームタンパク質S25を介してリボソームと強く結合し、リボソームの構造変化を誘発し伸長因子eEF2の作用を促進させ、最初のアミノアシルtRNAをPサイトに誘導させる、という反応機構を明らかにした。また、IRESの3'の非コード配列がタンパク質合成効率を10倍促進することが判明し、一般のタンパク質のコード配列にこれらウイルスの配列を導入することで翻訳系に利用できることが示された。 3.新規タンパク質発現系の開発:GTPaseセンターの一部を構成するL11を欠損した大腸菌株に、植物アミラーゼ等の不溶化しやすいタンパク質遺伝子を導入し、発現させたところ可溶性画分よりこれらタンパク質産物が得られた。この大腸菌株は生育速度が野生株の1/5であり、この効果はタンパク質合成速度の低下によると考えられた。この大腸菌株は、良質タンパク質産出に有効である。
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