研究概要 |
本年度は、海洋天然物にひろく用いられるオキサゾール環に注目して合成手法の開拓を行なった。カリキュリン類をはじめとする含オキサゾール天然物がポリケチド生合成に由来する炭素1本鎖から骨格転位によって生成するという仮説が、Mooreら、上村らによって提唱されていた。そこで、α位にジメトキシメチル置換基を有する各種のオキシムを調製し、酸触媒によるBeckmann転位を試みた。その結果、ポリリン酸を試薬として用いると転位と閉環が進行し、目的とするオキサゾールを良好な収率で与えた。このとき溶媒にはトルエンを用いたが、代わりに1,4ジオキサンを溶媒とすると転位を起こさずに閉環したイソキサゾーソレが主生成物となった。反応溶媒の選択による反応生成物選択性転換は興味深い。 オキシムを出発物質とする上記の方法と並行して、α位にジメトキシメチル置換基を有するケトンから直接オキサゾールを合成するプロトコールも検討した。すなわち、ケトンをヒドロキシルアミン塩酸塩とトルエン溶媒中で煮沸し、ついで、反応混合物に酸を追加して加熱を続ける方法である。中間体として想定されるオキシムを単離しないという意味で、我々はワンポット法と呼称している。このワンポット法においては、一般に生成物収量が中程度である問題点があるが、オキシムを出発物質とする段階法では得られない置換パターンのオキサゾール合成に適用できることがわかった。 これらの初期成果をまとめて論文発表した。今後は、本反応のさらなる高効率化を図り、天然物部分構造を含むライブラリー構築につなげていく計画である。
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