本年度は、海洋天然物ピンナ酸に着目した化学合成を進めた。本化合物は、cPLA2を阻害することから抗炎症剤のリード化合物として興味が持たれている。世界中の合成化学者が全合成に取り組んできたが、不斉全合成は1例しかない。特徴的な化学構造であるアザスピロ[4.5]デカン骨格の構築が鍵になる。著者らは、安価な光学活性プレゴンから調製した新規ビルディングブロックを出発原料として第2例目の不斉全合成を達成した。まず、光学活性シクロペンテノンに対して、パラジウム触媒を用いた[3+2]型の環化反応をおこなった。環化生成物のカルボニル基をオキシムとし、Beckmann転位反応によって、環拡大したラクタムを得た。この時点でスピロ中心の不斉を制御することができた。ピペリジン環のジアステレオ選択的構築は、著者らが開発した還元的ワンポット環化反応を用いた。すなわち、スピロ中心の窒素原子をCbzで保護しておき、接触還元による脱保護と同時にC5位のカルボニル炭素と環化させる。生じたイミン、もしくは、エナミンは、反応系内で立体選択的に還元されて目的のスピロ骨格を与えた。 このように構築したスピロ環部に上下2本の側鎖を導入した。先行研究例においてはWittig型の反応が用いられ、効率に課題を残していた。本研究ではクロスメタセシス反応を用いることによって、効率的な合成経路が完成した。今回確立した合成法を基にして、化合物ライブラリーを調製し、cPLA2阻害活性を評価する予定である。
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