研究概要 |
昨年度に引き続き、繊毛虫の自己防御を明らかにするために、その自己防御物質を探索するとともに、構造決定、合成研究、および生合成研究等、自己防御の分子メカニズムについて化学的に検討した。 1.ブレファリズマの自己防御物質について ブレファリズミンのC13-NMRの帰属に関しては未解決であった。ブレファリズミンはポリケチド経由の経路で生合成されると仮説を立て、C13ラベルの酢酸ナトリウムをブレファリズマの細胞に取り込ませた。この取り込み実験から得たブレファリズミンのC13-NMRを解析することによりその全帰属を達成し、生合成開始部位に関する知見を得た。この研究で、p-ヒドロキシベンジリデン基には酢酸ナトリウムは取り込まれなかったことから、この部位はシキミ酸経路の生合成を想定した。また、ブレファリズマの接合機構を明らかにする目的で、接合誘導物質ブレファリズモンの受容体探索のための蛍光プローブを分子設計し合成した。合成した蛍光プローブは顕著な接合誘導阻害活性をもち、強い蛍光を示すことから受容体探索プローブとして活用できると期待している。 2.スピロストマムの自己防御物質について スピロストマムの自己防御物質スピロストミンA, Bは4:1のジアステレオマー混合物として得られている。昨年度、スピロストミンBのラセミ体合成を達成することでその相対立体配置を明らかにした。今年度、さらにスピロストマムの細胞から主生成物として得られるスピロストミンAの合成も達成し、その構造を確認した。さらに、スピロストミンA, BをHPLCで分離し、そのCDスペクトルとDFT計算から求めた結果からスピロストミンA, Bの絶対立体配置を推定した。また、スピロストミンの生合成に関してポリケチド由来の生合成経路を想定し、C13ラベル酢酸ナトリウムを取り込ませた結果、酢酸ナトリウムが効率よく取り込まれることを明らかにした。 3.ロキソデスの自己防御物質について 大量に培養したロキソデスの細胞からゾウリムシに対する致死毒性を指標に活性成分をHPLCで単離し、質量分析とNMR測定を実施した。しかしながら、サンプル量の制限から構造決定には至らなかった。
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