サンゴがよく生存し、周辺地域では唯一配偶子を大量に生産できる個体群が存在している慶良間列島でのサンゴ群集の維持と更新の過程と、サンゴが激減している沖縄島でのサンゴ群集の回復潜在力を推定するために、慶良間列島で2地域、沖縄島で6地域を選定し、階層的に各地域内に合計30の地点を設定した。各地点でサンゴの放卵放精がある6月の満月までに幼生定着基盤を設置し、2ヵ月後に回収した。また回収時に各地点で、サンゴ群集の調査を行った。その結果、以下の点が明らかとなった。 1.沖縄島ではサンゴの被度が最大でも10%であり、特に樹状種については成熟サイズに達したサンゴがほとんど出現しなかった。一方慶良間列島では、成熟サイズに達した樹状サンゴが多数存在していた。 2.繁殖様式が放卵放精型で、幼生の浮遊期間が長いミドリイシ科については、慶良間列島に近い沖縄島の地域で、遠い地域よりもサンゴ幼生の定着数が有意に多かったことから、慶良間列島のサンゴ個体群が、沖縄島へのミドリイシ科サンゴ幼生の供給源であることが示唆された。 3.ミドリイシ科サンゴ幼生の定着数は慶良間列島と沖縄島で有意差がなく、ミドリイシ科の種については、慶良間列島に成熟群体が多いものの、慶良間列島で生まれた幼生が、別の場所へ分散していることが示唆された。 4.繁殖様式が幼生保育型で、幼生の分散距離が短い種を多く含むハナヤサイサンゴ科については、成熟群体がほとんどない沖縄島での幼生加入数が極めて少なく、成熟群体が多く存在する慶良間列島では、幼生加入数が沖縄島より有意に多かった、 これらのことから、慶良間列島でサンゴが保全されれば、沖縄島でサンゴ群集が回復する可能性が示唆された。また幼生の分散距離が短い種については、沖縄島での個体群の回復に時間がかかることが示唆された。
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