研究課題
基盤研究(B)
正義概念および人権概念の重要性がさまざまな学問分野で主張されているが、現実の政治状況やマルチカルチュラリズム的状況の中で、両概念は十分に解明されていないだけでなく、再構築の方向性も不明確なままである。本研究はこうした状況を整理した上でマルチカルチュラリズム的立場から正義および人権の両概念を解明しその再構築の方向性を示そうとするものである。本研究では、西洋近代以外に、古代ギリシャ、イスラーム、中国、日本の各思想研究者が一堂に会し、正義と人権をめぐる対話的比較研究を行った点が特徴的である。その研究の成果は以下の通りである。1.正義概念の多義性をふまえた上で、諸文化、諸政治体制の間での対話の可能性を模索するには、「正義の概念が持つ理念的・超越的性格」を念頭に置きながらも、むしろ具体的に各文化の思想状況に入り込み、正義以外の諸概念と正義との関係構造を全体として捉えることが重要であることが確認された。そして日本語で「正義」と訳されるディケー、ジャスティス、アドル、「正義」(漢語)といった語の意味を、各文化の文脈にそくして検討・確認した。さらに正義をめぐり多文化間での対話の可能性を模索するには、「理」によって画定される「正義」とは対極にある感情的要素、例えば、愛や慈悲、共感、怒り、屈辱、不正義感などの研究を併せて行う必要があることも明らかにされた。2.「人権」概念のような西洋近代の正義をどのように規定しても、「よき生」を実現する上では常に不完全さ、不十分さを免れることはできない。その際、そうした不十分さや不完全さを知らせるのは、正義そのものというよりは感情的要素であり、このような要素に注目することが、多様な文化における正義概念相互の対話のための重要な通路となりうることが確認された。3.「戦争における正義」と「戦争に対する正義」のように、戦争に関しても「正しさ(正義)」というものが間題になる。そこでの正義は、戦争の罪と戦争における罪の問題はもちろん、戦争における死者の弔い方の問題にも連なってくる。正義は弔いや慰霊の文脈においても持ち出され、死を有意味化する上で大きな役割を果たすが、それが持っている政治的意味と、死者を受け入れる宗教的・文化的文脈とを包括的に捉え直すことが、現代の正義の問題を考える上で必要であることが確認された。
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