本年度は、ギデンズ、カストリアディス、アイゼンシュタット、アルナソンらの近代化論を、一方で日本近代化との関連で、他方では軸時代論との関連で取り扱った。近代化を国民国家、資本主義、民主主義の葛藤の側面で捉えるアルナソンらの理論は、そのつどの解決戦略が多様であり、しかも軸文明的な基盤の上で行われることを念頭においた優れたもので、なにゆえに近代化が多様な道をたどることになるかを明らかにしてくれた。これを元に日本近代化について、また西欧と非西欧の近代化のディスクルスの相互干渉について具体例を挙げながら討究を行った。特に天皇制による社会統合を文化主義にもイデオロギー批判にも陥らずに説明する道が開けた。 また、アイゼンシュタットの軸時代論からは、軸文化内部の多様性と同時に、軸文化と近代化との関連について多くの知見が得られた。軸文化内部で、文化と権力の相互関連がさまざまな方策を取るゆえに、同じキリスト教文化圏でも近代化は多様となる。また、文化と権力の相互関連、特に文化の権力への変換を中心に近代化の多様な道を辿る上記の著者たちの方向が、ヨーロッパ内部の差異についてのみならず、日本近代化と社会主義社会の比較など重要な研究視角を提供することが明らかとなった。 西欧が非西欧地域に向けて発する近代化論と、非西欧地域で結ばれる近代のイメージの相互関連を、コロニアル・モダニティの名称の下に、芸術や文学、都市計画なども含めて捉える可能性も追求された。この問題は、特に最終年度である次年度の主たるテーマとなる。 また、韓国の釜山大学で行われた日本、中国、韓国の近代化をめぐるシンポジウムに研究代表者および研究分担者全員が参加し、この問題について発表を行い、相互に知見を交換したのは、今後の研究にとって有益であった。
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