選択的近代化(selective modernities)と交錯する近代(entangled modernities)の実態と理論を、ヨーロッパの様々な地域、およびヨーロッパ外の地域に即して検証する試みを続けた。特にArnasonやShalini Randeriaの理論を中心に検証作業を行った。 2008年2月には、韓国、ドイツ、アメリカ、日本の研究者を招き、韓国、日本およびインドにおける近代化の比較と相互干渉についてのワークショップを行った。特にドイツおよび日本のインド研究者の参加を得たことは重要だった。それによって、近代の個々の産物が他地域にとってavilableであること、およびその意味について理論的深化が得られた。つまりavailability自身がselectivityと深く関わっていることである。さらに、「伝統と近代」「東洋と西洋」といったこれまで馴染んできた概念が現在では有効性をほぼ喪失しつつあることが相互に確認された。これは、構築主義の問題性の認識とともに本科研の重要な成果である。 構築主義に関してはポストコロニアリズム的ディスクルスにおける構築主義の概念が単純すぎるとの認識に依拠して、構築主義と本質主義という不毛な対立を越える必要性が確認され、多様な近代化(multiple modernities)はその方向への一歩であるとの認識が得られた。 また各国、各地域での人文科学の基礎用語自身が、西欧の巨大な影響下にありながらも、やはり相互に大きな差異があり、そうした差異を架橋する試みがこれからの課題であるとの認識も得られた。
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