研究課題/領域番号 |
16320016
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小田部 胤久 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (80211142)
|
研究分担者 |
渡辺 裕 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (80167163)
|
キーワード | 文化的キアスム / 文化触変 / 自然と先入見 / 中心と周縁 / 批判的地域主義 / 民謡 / さすらい / 断片 |
研究概要 |
本年度は小田部が夏学期に約5ヶ月にわたりドイツ・ハンブルクにおいて海外研修を行った。その間、小田部は、第一に、ドイツ・ロマン主義の時代における独仏関係、第二に、20世紀前半の日本におけるドイツ・ロマン主義の受容について研究した。ドイツ滞在中には、昨年度始めた「さすらい」概念についてブレーメン大学で講演を行い、また、和辻の文化触変にかかわる理論についてハンブルク芸大、カッセル大学、ボーフム大学などで講演を行い、またロマン主義の「批評」観についてハンブルク大学で講演を行った。さらに、ロマン主義の「批評」観を検討することを通して、小田部はさらにロマン主義における「断片」概念へと研究を広げた。 また、小田部は11月末から12月初めにかけてヴェネツィア国際大学で開かれたシンポジウム「シェリングの芸術哲学」に講師として参加、その後ミュンヘン大学において和辻哲郎についての講演を行った。 また、小田部は、1920年代末にドイツに留学した日本人哲学者・美学者に関心を寄せ、上述した和辻哲郎のみならず、大西克礼や鼓常良の軌跡を追跡した。ドイツ文学者で当時第八高等学校教授であった鼓は20年代末にドイツ・ベルリンに留学し、ドイツ美学会でドイツ語にて報告を行うとともに、美学会雑誌にドイツ語論文を発表、さらに帰国後にはドイツ・インゼル社から日本の芸術についての単著を公刊する。この点において、鼓は日独間の相互的な文化的キアスムを一身に担った学者である。小田部は、鼓が日本の芸術の「無限界性」「断片性」を理論化するにあたって、当時の西洋の美学が果たした役割について明らかにした。 なお、小田部が2006年1月に公刊した『芸術の条件--近代美学の境界』は、本研究とも密接に連関する。副題にいう「境界」とは「キアスム」的構造を意味するからである。 渡辺は、前年度に始めた「観光人類学」の手法をさらに展開させ、観光地が観光客の目(という外部)を内に取り込みつつ観光地を作り上げていくプロセスを、観光地の特産品などの研究を通して明らかにした。また、フランスで発行されたSonoramaをモデルに日本で作られた「朝日ソノラマ」の検討を通して、音資源が果たす役割のフランス・日本比較を試みた。
|