研究課題
基盤研究(B)
西洋画が日本に移入され、一世紀が経過し、明治期油画は文化財としての価値が認められ、重要文化財「鮭」「収穫」など、本学美術館には多数の作品が収蔵されてきている。われわれプロジェクトは、これまでの研究成果を「明治前期油画基礎資料集成」(平成3年、中央公論美術出版)「明治後期油画基礎資料集成」(平成16年、中央公論美術出版)にまとめてきた。これらの研究成果に基づき、東京美術学校西洋画科黎明期の卒業制作・自画像作品約50点に焦点を絞り、調査研究するものである。本学美術館に収蔵されている自画像作品は、原則として卒業生全員に課せられた課題であり、その当時の日本における油画作品のトータルな水準を示すものである。具体的な調査研究方法は、正常光、側光線、赤外線、紫外線蛍光による光学調査、採取された微小部試料(クロスセクション)の電子顕微鏡による断層写真、元素同定を含んでいる。これらの調査結果から詳細な記録(写真、文書)を作成し、絵画材料、絵画技術、保存修復の観点から考察を加えるものである。現在の時点で、約30点の自画像作品の調査研究を継続しており、「視覚の近代化、すなわち写実主義(リアリズム)が日本にどのように定着したのか、そしてそれを支えている絵画材料、絵画技術の実態はどうなのか」探求している。思いのほか表現方法にはヴァリエーションの幅があり、明治前期(旧派、脂派)と明治後期(新派、紫派)油画作品の特徴とが入り乱れながらも、その表現内容は明治末期の青年の内面を照らし出している。本研究では、アナログ写真はもちろんのこと、デジタル写真撮影にも取り組んでいる。作品のデジタル写真化も目指しており、アーカイブ社会の要求にも応えようとしている。まだ、試験的段階であるが、200000000画素の高密度データができるようになってきている。マクロとミクロが同存化している画像データといえるだろう。
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東京芸術大学美術学部紀要 第41号(予定)
ページ: 60
東京芸術大学美術学部紀要 第40号
ページ: 68