本年度における最も大きな成果は、小笠原とミクロネシア(特にパラオ)との踊りによる交流を促進支援したことである。すなわち、小笠原の南洋踊り保存会に呼びかけ、8人の有志とともに7月太平洋芸術祭(開催地・パラオ)に参加し、太平洋諸島各地の踊り手や観客の前で「南洋踊り」を披露する一連のプロセスに関わり、両国大使館や現地実行委員会との折衝、当日の司会進行、国際伝統音楽学会太平洋音楽研究会における小笠原とパラオの踊り手および研究者との交流会開催などを行ったのである。10日間の開催期間中、終日複数箇所でパフォーマンスが行われる太平洋芸術祭の取材に際しては、同行した大学院生に調査補助を依頼した。また交流会等に際しては、パラオの音楽文化を専門とする山口修氏の仲介や助言を得ることで円滑に進めることが出来た。これにより、南洋踊り保存会会員との信頼関係も高まり、帰国後8人の有志とともに研究会を開催して成果を小笠原島民に向けて発信し、南洋踊りの発展およびパラオとの持続可能な文化交流に向けての議論に対する助言を行った。これに前後するかたちで、これまで収集した視聴覚資料の分析整理を行った。これと、今年度小笠原およびパラオで行った聞き取り調査やデモンストレーションの参与観察、ポーンペイで収集した資料と合せることにより、行進踊り現状比較のための視座を得た。たとえば、パラオと小笠原の行進踊りでは掛け声と手足の動きのタイミングにずれがあることなどがわかったのだが、このような相違点がいつ頃どのような過程で生じたのかなど今後の課題が明らかになった。
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