三年計画プロジェクトの1年目として、(1)諸外国の労働契約法制の客観的把握と、(2)日本の労働契約法理に関する判例分析を課題とした。 まず、(1)諸外国の労働契約法制の客観的把握については、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカにおいて、労働契約を規律する制定法の分析を行った。ドイツでは刑事罰や行政監督によって履行確保を図る労働保護法と、そうした公法的権利実現措置を伴わない労働契約法の区別が明確に存在するが、そのほかの国では、そうした概念区分は明確には存在しない。しかし、当該労働契約内容に影響を与える制定法が国家によって履行確保がなされるのか、それとも当事者が訴訟等の紛争処理機関を利用することによってその権利実現を図ることが予定されているのか、という視点は、他の国でも有用なものと考えられる。そこで、そうした視点から、各国の労働法制に分析を加えつつある。また、公法的担保のない労働契約法の実効性を確保するためには、紛争処理システムとの連携、紛争処理の効率性が課題となる。そこで、各国の紛争処理システムの概要についても基礎的研究分析を行った。 また、(2)日本の労働契約法理に関する判例分析については、多数の判例について一種のデータベースを作成しつつ、分析を進めている。特に、従来あまり検討の行われてこなかった民法の雇用契約に関する規定の強行性・任意性について検討を行うとともに、新たに構想する労働契約法の関係をどのように捉えるべきかについて、関連する裁判例を分析し、検討を深化させた。
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