研究課題
今年度は中小企業庁の『企業金融環境実態調査』所収の個票データを用いて中小・中堅企業と銀行との取引関係の変化について実証分析を行った。使用した実態調査には中小・中堅企業のメインバンクをはじめとして銀行との取引関係に関する定性的な情報が数多く含まれている。研究の視点は、資金調達手段として銀行借入に大きく依存している中小・中堅企業にとって、90年代後半における不良債権累増による銀行のバランスシートが毀損する過程で、どのような取引関係の変化が生じたのかというものである。実証分析の明らかになった点は以下の通りである。1.中小・中堅企業の多くは、融資やその他のサービスを享受するメインバンクを有しているにもかかわらず、複数の金融機関と取引を行っている。2.財務状況の悪い銀行をメインバンクとする企業は、流動性リスクを回避するためにより多くの金融機関と取引を行う傾向にある。3.メインバンクとの取引年数が長ければ、それだけ取引金融機関数は増加する。これは、メインバンクとの長年の取引関係がその企業の評判を高め、それが他の金融機関を引きつけるreputation effectを表しているか、あるいはメインバンクによる独占力を弱めるための方策と考えられる。4.メインバンク関係が銀行との融資契約に及ぼす効果を調べたところ、取引金融機関数が少ないほどメインバンクは個人保証を要求し、高い借入金利を課すことがわかった。これはメインバンクによる顧客企業への独占力の行使を示唆している。
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Journal of the Japan Statistical Society (forthcoming)
Economic Systems Vol.31,No.1
ページ: 49-70
Journal of Money, Credit and Banking Vol.39,No,1
ページ: 241-257