アメリカの連邦財政構造の中にパクス・アメリカーナの基軸国の役割やアメリカ・モデルを読み取ることを試みる。冷戦の終焉に伴う軍事支出の縮小が追い風になった。逆から見れば、冷戦の終焉によって基軸国アメリカがアメリカ・モデルを提示する必要が一層大きくなくなり、また、より純粋なアメリカ・モデルへの回帰が受容されたのである。計数的にいえば、連邦財政支出の対GDP比率が同じであっても、軍事支出が減少して非軍事支出が増加する中で、社会保障年金やメディケア等の社会保険を中心として社会福祉関連のエンタイトルメント支出が膨張する。 1990年度末の国債残高の対GDP比率が55.9%、連邦政府部門の保有分が13.9%、外部の所有分が42.1%であったのが、2000年度には国債残高が57.3%、連邦政府部門の保有分が22.6%、外部の所有分が34.7%になっている。すなわち、連邦基金の財政収支が改善された(赤字幅の縮小から均衡へ)ので国債残高全体の対GDP比率の伸びが抑制され、第2に連邦政府内部の信託基金の黒字累積による国債保有が一層進んだので、外部の国債所有の対GDP比率が急速に減少したので、第3に連邦政府が外部に支払い純利子の対GDP比率も急減したのである。 なお、この信託基金の国債保有の主力である社会保障年金基金の積立金は、周知のように、ベビーブーム世代の引退に備えるものであり、近年のブッシュ政権による社会保障年金改革論の背景をなすものである。 1990年代には、歴史的にみても稀なほどの見事な財政再建が果たされたが、それは、一つにはニューエコノミーと呼ばれるほどに好調な経済環境の中で株式市場の高騰等によるキャピタル・ゲイン等の資産所得の増加という一時的な条件もあるが、その背後で、ベビーブーム世代の引退前における年金基金の蓄積という中長期的な条件もあった。それが、社会保障年金や連邦公務員年金の信託基金による国債保有の増大の本質である。
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