本研究の目的は、財政学の視角から、アメリカ型福祉国家の重要分野を、近年のアメリカ財政再建のプロセスの中に位置付けて、分析することである。 第1に、アメリカ・モデルの重要な側面として、本来的に非市場的な存在である租税制度が有するはずの市場阻害的な性格を、できる限り最小化しようとするような市場整合的な減税があったが、それを可能にした要因の一つが、この時期の冷戦終焉に伴う画期的な軍事縮小であった。 第2に、アメリカ型福祉国家の再編の中でも、年金及び医療の社会保険における改革案とその挫折の過程が重要である。その挫折は、逆からみれば、雇用主提供の年金や医療保険という民間制度を軸とする基本構造の維持であり、したがって、その民間活用の基本構造に対する連邦政府の主たる奨励策としての租税優遇措置が重要な論点である。 第3に、アメリカ福祉国家財政の再編におけるもう一つの特徴は地方分権化であった。1990年代における福祉改革は、周知のように、アメリカ・モデルの最大の特徴である自立と自律を強調するベクトルを強めるものであったが、同時に、公的扶助にかかわる連邦補助金の抜本的な改革でもあり、連邦政府から州・地方政府への権限委譲が重要な論点であった。 アメリカ型福祉国家のこれらの各分野について、歴史的な背景も踏まえて、1990年代の冷戦終焉と「ニューエコノミー」的な状況の下で画期的に進行したアメリカ型福祉国家の再編という内実を盛り込んで、財政の構造変化と再建を総合的に分析する成果として、下の項目11の書物がある。
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