研究課題
平成18年度には、聴覚障害児の物語理解における視覚的情報処理の特徴を検討した。つまり、学年相当の言語力を有する聴覚障害児に4コマ絵からなる物語を提示し、その時の視点の変化を、眼球運動の側面から、同年の健聴児との比較を通して明らかにした。被験児は、聾学校小学部4年生8名、6年生12名、中学部2年生8名の計28名の平均聴力レベル81〜131dBの学年相当の言語力を有する先天性聴覚障害児と、小学校4年生8名、6年生10名、中学校2年生8名の計26名の健聴児であった。実験課題は、4コマ絵からなる物語2種類を提示し、そのときの眼球運動とその後の再生が測定された。眼球運動の測定は、非接触型眼球運動装置TalkEyeII(竹井機器工業株式会社)を用いて、停留位置、停留点数、停留時間が測定された。実験の結果、聴覚障害児の物語理解は、健聴児と同様、学年の進行に伴い再生頻度が増加する発達傾向を示すこと、眼球運動の分析では、学年進行に伴い、注視点が減少し、平均注視時間が増加する発達傾向を示すこと、物語展開部位別の分析では、展開部毎に存在する注視点や注視時間の偏りが、学年の進行により、より顕著に示され、高学年になるにつれ、展開部と結末部への注視が増える傾向が示された。また、聴覚障害児は、健聴児に比べて、全般的に短い平均注視時間を有する注視点を多用する方略を用いることが示された。一方、特定の場面に長時間注視する健聴児とは異なる傾向もみられた。理解では、物語の筋の把握のような全般的理解においては健聴児に劣らないが、人の感情を推察する質問課題においては、小学部低学年では誤理解が多く、中学部段階であっても、人の感情の描写が単純かつ貧弱に表出されることが示唆された。このことから、聴覚障害児の物語理解における視覚的情報の特徴は、おおむね健聴児と同様の発達傾向と理解の程度を示すものの、理解に至るまでの眼球運動に観察される認知的処理や感情把握の質的な側面において、健聴児とは少々異なる側面を有することが確認できた。
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日本特殊教育学会第44回大会発表論文集 44
ページ: 813
9th Asia-Pacific Congress on Deafness and 40th Annual Conference of the Japanese Deaf Education Association, Abstracts Book. 2006
ページ: 226-227