研究概要 |
外科矯正患者の非言語的コミュニケーションにおいて,顔の変化の前後で何が変わるか,ほどよい適応のためには何が重要なのかについて手術適応の下顎前突症患者を対象に検討した。主な知見は以下の通りであった。 1. 患者が手術後,顔立ちの変化を意識する契機は周囲他者からの指摘であることが多かったが,その意味づけの仕方は当該他者との関係性および当時の患者の生活状況の中で変動していた。 2. 手術前に自己の顔に対する不満および対人関係における顔由来の支障感を強く訴えていた患者において手術後の顔への不満は低減していた。一方,手術直後の苦痛体験が強く,感覚異常等の後遺症が残存している患者では手術後もなお,不満を感じやすい傾向が認められた。 3. 患者が自覚している非言語的コミュニケーションの変化は,口元を隠す仕草が減り,気遣いせずに笑えるようになったこと,服装や髪型の選択肢が広がったことなどであった。 4. 手術後の患者への心理的援助の要点は,術前にみられる自己認知の「硬さ」に働きかけながら,治療に対する防衛的態度や罪悪感を含む様々な思いを取り上げることであると考えられた。 5. このような「硬さ」に対して臨床動作法および主動型リラクセイション療法を参照して椅子に座ったままで気軽に実行できる上体弛め課題を施行したところ,患者の表情および気分が活性化することが明らかになった。また課題後に語られる体験の内容が豊かになる傾向が認められた。顔や顎にこだわりをもつ外科矯正患者への心理的援助法として,顔や治療をうけること自体を直接取り上げるのではなく,問題が表象化されている場所としての身体に対して新たな気づきをもたらすことが有効であると考えられた。
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