研究課題
最終年度であり、ドイツで補足調査を行ったほかは、欧米各国の資格制度や日本の臨床心理学史について検討を行った。日本心理学会において、欧米の臨床心理学史に関する自主シンポジウムを行い、その結果を公刊した。また、日本の臨床心理学の歴史を掘り起こす作業として、昭和戦前期に在野研究者である大槻憲二が発行していた『精神分析』を収集しその復刻作業を行った。また障害者の情報保障に取り組んでいた愛知県心身障害者コロニーの戦後の取り組みについても関係者の聴き取りを行った。これまで取り組んできた欧米の資格制度の成熟は、臨床心理学自体の成熟の上になりたったものである。内容や訓練制度のあり方は多少の濃淡はあるものの、・欧米では社会のニーズに応えるべく、心理学者が国家資格を整備しつつある。フランスではシャルコー以来の伝統である医学心理学の流れをくんだ病理学的色彩が強い。ドイツではフロイトの影響で精神分析的精神療法の力が強い。イギリスではアイゼンクの影響のもと認知行動療法が強い。アメリカでは臨床心理学の範囲が極めて広く、カウンセリングやガイダンスまでが含まれている。これはヒーリーやロジャーズの影響である。また、州によっては投薬ができる臨床心理学士も存在している。日本では、欧米に比べれば臨床心理学の範囲が曖昧で、また資格制度も心理学に依拠しているとはいえない。これは、日本の学問が心理学に限らず輸入主義・折衷主義であることに原因の一つがあると思われる。しかし、それ以上に、明治期において臨床心理学の担い手だった東京帝国大学・福来友吉が臨床心理学を離れ超能力研究に進んでしまったことで、戦前期日本に臨床心理学者が育たなかったことが原因だと思われる。時間を遡ることはできないが、日本や欧米の現在と歴史を知ることで、未来の臨床心理学のデザインが可能になると思われる。
すべて 2008 2007
すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
ヒューマンサービスリサーチ 10
ページ: 4-18
ページ: 32-42
ページ: 43-52