本年度は、中心軸構造と視覚的認識の関係解析を中心に研究を行った。前年度から継続して行ってきた中心軸を可視化するためのマスキング実験では、様々な刺激条件を操作し観察を続けてきたが、明瞭な中心軸が知覚される条件は特定できなかった。これを受けて、中心軸情報は高次の抽象的表現であり、可視化可能なものではない可能性もあると考え、マスキング実験と並行して、従来定性的なデータから示唆されてきた中心軸の存在を、定量的に示すための新たな実験に着手した。 この実験では、輪郭線図形内にオブジェクトを配置する課題において、図形の中心軸が影響を及ぼすか否かを検討した。第1実験では、オブジェクトの位置を決定する際に中心軸情報が影響するかを明らかにするため、被験者に輪郭線図形を提示し、その内側に点を1つ任意の位置に配置させた。第2実験では、オブジェクトの方位を決定する際に中心軸情報が影響するかを明らかにするため、被験者に輪郭線図形とその内側に1つのオブジェクトを提示し、オブジェクトを任意に回転させその方位を決定させた。その結果、以下のような知見が得られた。 第1実験では、被験者が配置した点の位置を重ね合わせた結果、配置された点は図形の中心軸近傍に偏在する傾向が示された。シミュレーションに基づく解析から、実験で得られた偏在の傾向は、統計的に有意であることが明らかとなった。第2実験では、各位置に提示されたオブジェクトの方位を被験者が調整した結果は、理論的に求められた中心軸の方位と有意な相関(>0.7)を示すことが明らかとなった。 以上から、人がオブジェクトを配置する場合に、輪郭線図形の中心軸情報が影響を及ぼしていることが明らかとなった。第1実験の結果は、従来定性的に示されてきた中心軸の影響を定量的に確証するものであり、第2実験の結果は、中心軸情報の内、方位が視覚的認識に影響することを初めて示したものである。 上記の研究に加え、自然画像の視覚構造分析及び眼球運動測定実験についても、前年度の成果を踏まえ、さらに研究を推進した。
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