研究分担者 |
塩谷 隆 東北大学, 大学院・理学研究科, 教授 (90235507)
井関 裕靖 東北大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (90244409)
尾畑 伸明 東北大学, 大学院・情報科学研究科, 教授 (10169360)
納谷 信 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (70222180)
砂田 利一 明治大学, 理工学部, 教授 (20022741)
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研究概要 |
小谷・砂田は結晶格子上のランダムウォークの大偏差に関して,その幾何学的考察を行った.結晶格子は自由アーベル群が作用し,商空間が有限グラフとなる.この周期性から,結晶格子を無限遠から観察すると一様な図形に見える.より正確に述べる.結晶格子をグラフ距離によって距離空間と考え,距離をスケール変換した距離空間の1パラメーター族を得る.このスケールをゼロに近付けたときのグロモフ・ハウスドルフ位相による極限距離空間を,結晶格子の無限遠での接錐という.結晶格子のようなアーベル周期性をもつ距離空間の無限遠での接錐の存在は,グロモフによって知られているが,この極限距離空間を具体的に,また,グラフの幾何の言葉で特徴つけた.距離球はコンパクト凸多面体となり,その端点が,具体的に商空間の閉路の構造で決まることを調べた. この結果は,結晶格子上のランダムウォークの大偏差を調べ,その減衰オーダーを表すレート関数の本質的定義域と上記の距離球が一致することを見,大偏差の意味を考えることで得られた.距離球の幾何学的特徴付けを与えただけではなく,大偏差的挙動と,無限遠の接錐の係わりを示したことで,今後の展開の方向が明らかになった. この研究は井関・納谷の組合せ調和写像と離散群の研究とも深い関わりを持つ.離散群が作用するアダマール空間上の熱流を考察し,また組合せ論的調和写像や,ラプラシアンのスペクトルと,群作用の固定点に関する結果である.上記,小谷・砂田の結果をアーベル群からより一般の離散群,特にアダマール空間に作用するような負曲率性の高い離散群に格調する場合の指針と方法論を与えている. 塩谷の距離空間の収束に関する研究は,同様に,このような一般化にむけて大切な進展である.距離空間のリッチ曲率と,相対エントロピーの関係があきらかになりつつあるが,大偏差と相対エントロピーの関係は良く知られている.
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