研究課題/領域番号 |
16340053
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
須藤 靖 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (90183053)
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研究分担者 |
樽家 篤史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教 (40334239)
大橋 隆哉 首都大学東京, 都市教養学部, 教授 (70183027)
佐々木 伸 首都大学東京, 都市教養学部, 助教 (80262260)
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キーワード | 宇宙物理学 / X線天文学 / ダークバリオン / 軟X線分光 / 酸素輝線 |
研究概要 |
理論的にはダークバリオンの大半は10万度から1千万度の温度をもつWarm/Hot Intergalactic Medium(WHIM)であろうと予想されている。この温度範囲のWHIMの場合、熱制動幅射によるX線強度は弱く、直接検出はほとんど不可能である。本申請では、赤方偏移が0<z<0.3に分布するWHIMからのOVII(561ev,568eV,574eV)ならびにOVIII(653eV)の輝線を観測することで宇宙のダークバリオンの空間分布をマッピングし、それから宇宙のバリオン進化史を推定する理論的枠組みの構築を目指している。また、現在知られている宇宙のバリオンの大半は高温ガスとして存在するため、X線観測が主役となる。特に、X線観測に基づく銀河団統計は、歴史的には宇宙論パラメータの推定において先駆的な役割を果たした。これら宇宙のバリオン進化の理論的究明を目指している。 WHIM探査を目的としてわが国では軟X線精密分光観測ミッションDIOS(Diffuse Intergalactic Oxygen Surveyor)という小型衛星計画が検討されてきた。2007年にはヨーロッパ宇宙機構の2015-2025年の大規模ミッションの計画を選ぶ"Cosmic Vision"の公募に対して、日本が考案した4回反射望遠鏡を用いた広視野高エネルギー分解能のX線サーベイによる輝線マッピングと、GRBを光源とした宇宙論的距離での吸収線観測を組み合わせた日蘭伊共同ダークバリオン探査衛星"EDGE"を提案した。残念ながら結果は不採択に終わったもののダークバリオン探査専用衛星の実現を目指す国際的な動きは引き続き活発である。 今年度の実績としては、背景クエーサーとカンマ線バーストのX線残光を利用してWHIMの吸収線を検出する可能性とその宇宙論的意義に関して、カロリメータだけでなく、更にエネルギー分解能の高い回折格子についてもシミュレーションを行う等の詳細な研究を行った。さらにWHIMでは密度が低いため、元素は電離平衡からずれる可能性が指摘されていた。そこで、酸素の電離状態の時間発展を追うことで実際に電離平衡が成り立っていないことを示すとともに、異なる電離状態の酸素の輝線の強度比が電離平衡からのずれを表す指標になることを見つけた。さらに観測においてノイズとなりうる銀河系内からの放射、酸素以外のイオンからの放射、またポアソンノイズによる誤検出とWHIM由来の信号を十分分離できるかどうか、シミュレーションを用いた模擬観測を用いて調べた。また、一方、我々が理論的に提唱してきた銀河団ガスの温度構造と揺らぎに対する解析モデルである対数正規分布について、まず、光子数によるノイズの影響を受けない特定の銀河団のみで観測的に検証することができた(Kawahara et al.2008)。そこで、光子数の比較的少ないデータに対して、ポアソンノイズの影響を考慮することのできる方法を開発した。これにより複数の銀河団で対数正規モデルの検証とモデルパラメクを求めるための解析が可能になった。その結果、複数の銀河団で、対数正規分布モデルが現実にもよい近似として実現していることを発見した。これらの結果は現在論文としてまとめている段階である。
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