本研究の目的は、B中間子のFCNC(Flavor Changing Neutral Current)崩壊過程に注目し、いろいろな崩壊モードにおいてCP非対称性を測定し、標準理論の予言値と比較することによって標準理論を超える理論に迫ることであった。FCNC崩壊過程ではループダイヤグラムが支配的であることから、標準理論を超える粒子等の寄与に敏感であり、その寄与はCP非保存パラメータを大きく変える可能性が高い。その比較のためには、まずCP非保存パラメータを標準崩壊モードで精度良く測定しておく必要がある。本研究では、まずCP非保存パラメータφ2をB→π+π-、ρπ、ρρの崩壊モードを解析して精度よく測定することに集中した。そして約10%の精度で求めることに成功した。95%信頼度で決定したその値(97±11)°は、標準理論の小林・益川機構によるものと矛盾しないものだった。しかしながら、FCNC崩壊過程での測定については、本研究グループとしては十分解析できるまでには至れなかったことは残念である。しかしながら、Belleグループの他の研究グループと共同でそれらの解析に間接的に関わり、議論や論文化を通じて貢献した。 素粒子物理学における標準理論は1970年代半ばに定式化された。自然界に存在する4つの力のうち重力を除く3つの力を記述する強力で美しい理論である。CP非保存については、1973年に提唱された小林・益川機構により自然に標準理論の枠組みに組み込まれた。しかし、その実験的検証は困難であった。1999年から稼働を始めたKEKB加速器は世界一の輝度を誇り、Belle実験は現在まで順調にルミノシティを溜めて800fb-1に達し本研究のような検証を可能にした。
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