陽子と中性子(まとめて核子と呼ぶ)はクォークから構成されている。核子のスピンは1/2であるが、それがどのようにその構成要素からつくられているかを解明するのが、本研究の目的である。従来は、核子のスピン1/2は、核子の中にあるクォーク3個のスピンからできていると考えられていたが、1988年のEMCグループの実験により、核子のスピンに対するクォークのスピンの寄与は小さいことが明らかとなった。これを「核子のスピンの問題」と呼んでいる。 クォークのスピン以外の寄与としては、グルーオンのスピンの寄与が考えられる。それから、クォークやグルーオンは核子という狭い空間に閉じ込められているので運動量をもって動きまわっており、それらの軌道角運動量が核子のスピンに寄与することも考えられる。 本研究では、クォークの軌道角運動量に寄与に焦点をあて、新しい実験手段により成果をあげた。実験はドイツのDBSY(ドイツ電子シンクロトロン研究所)で行い、データを東工大にあるデータ解析拠点に送って解析を行った。27GeVに加速された陽電子を、ビームに対し横方向に偏極した陽子標的に深非弾性散乱させ、散乱した陽電子と発生したπ中間子を同時測定して角度相関を詳細に解析した。その結果、横偏極の標的の従来の実験では分離できていなかったCollins効果とSivers効果を分離することに成功した。 Collins効果は、従来では測られていない新しい構造関数を含んでおり、核子のスピン構造の基本的な性質である。一方、Sivers効果は、クォークの軌道角運動量との関係が理論的に示唆されているので、本研究の実験結果は「核子のスピンの問題」の研究に新しい道を開くことになった。
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