研究概要 |
陽子のスピンに対するクォークのスピンの寄与は20-30%にすぎない、という問題は「陽子のスピンの問題」と呼んでいるが、約20年前にEMC実験によって発見されたものである。グルーオンのスピンや、クォーク・グルーオンの、軌道運動が寄与している可能性がある。世界中の主要な粒子加速器のほぼすべてで、この陽子のスピンの問題が研究されている。本研究では、高エネルギーの偏極電子ビームと偏極陽子標的を用いて、ドイツ・DESYでHERMES国際共同研究として行った。電子と陽子の深非弾性散乱による実験である。 RICH(リングイメージングチェレンコフ検出器)によってπ、K中間子を識別できるので、フレーバーごとのクォークのヘリシティ分布関数を決定した。この粒子識別により従来よりも実験からの情報が増えたので、u, d, s, ubar, dbarの5成分について決定することができた。uクォークの偏極は正で、dクォークは負だが、sクォークと反クォークの偏極はゼロに近い。 ついで、横偏極の陽子標的を用いた実験データの解析から、発生したπ中間子、K中間子について、電子が散乱された方向との角度相関を測り、Sivers効果とCollins効果を分離して測定することに成功した。軌道運動を反映するスピン非対称度があることが見つかった。これは、クォークのスピン以外の寄与を示唆する最初の結果であり、陽子のスピン構造の研究にとって新しい展開となった。 重陽子はスピン1なので、テンソル構造関数がある。電子深非弾性散乱によって、blを世界で初めて測定した。理論的研究にも新しい研究対象を提供する測定である。 HERMES実験の特徴である偏極気体内部標的について詳しく記述した論文を発表した。
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