凝縮系における物質の構造は、微視的な原子配列によって単純に決まるのではなく、中間的なメゾスコピック構造を持ち、さらにそれが結合してより大きな高次の構造を形成することで、構造の階層を持つことが多い。本研究では、独自に開発した走査プローブ法の一種である走査型近接場ラマン分光法を用い、ナノ領域で現れるメゾスコピック構造からの分子内振動スペクトルを直接観測し、その温度依存性と空周分布を求め、クロスオーバーの振る舞いを明らかにすることを目的とた。 本研究目的を達成するため、光の波長よりも小さい極微領域からの微弱な散乱光シグナルを、効率よく集光し、分光する光学系の開発が必須である。この開発は進展しており、特許申請「微小開口カンチレバーおよびそれを用いた近接場分光装置」に結びついている。さらに、メゾスコピックな性質が出現する温度領域まで、試料温度を制御することを目指し、新しいタイプの近接場ラマン分光測定用温度可変装置を試作した。装置に要求される性能として、真空系などからの振動が除去できていること、高い温度安定性を有し、窓材などからの光学損失が低いこと、近接場光学系が組み込めることなどが挙げられる。特に、メゾスコピック構造のクロスオーバーを解明するためには、温度依存性だけでなく、空間依存性も求める必要があり、試料の走査のためのピエゾ駆動素子も温度可変装置内に設定しなければならない。そのため、本研究では、微小開ロカンチレバーの試作と、市販の装置を改良し、既設の走査型近接場ラマン分光測定装置に組み込むことができる温度可変装置(可変温度範囲:-120〜300℃)の開発を行った。 本研究で試作したシステムを用いて、近接場ラマンスペクトルを観測することに成功し、メゾスコッピクナノ構造を解明する体制が完成した。
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