本研究では、強相関電子系を対象とし、光励起によって伝導性、光物性、磁性が高速に変化する光誘起相転移(スイッチング現象)の開拓を目指している。本年度は、光誘起絶縁体-金属転移を目的として、一次元モット絶縁体であるBEDTTTF-F2TCNQ結晶において、ポンププローブ分光測定を行った。反射率変化スペクトルの測定領域は、高エネルギー側は可視領域まで、低エネルギー側は15ミクロンまでとし精密なスペクトロスコピーの実現を目指した。低エネルギー領域では反射率はエネルギーゼロに向かって単調に増加しており、光励起によって金属的な状態へ転移していることが確認された。重要な結果は、非常に弱い強度の励起(分子あたり0.003光子の励起)であっても、金属的な反射率変化の挙動が見られたことである。このような弱励起による金属的状態の生成は、一次元モット絶縁体に特有のスピン電荷分離の性質に基づくものであると考えられる。ドルーデモデルを使って過渡反射スペクトルを解析したところ、すべての励起強度の過渡反射スペクトルが、不均一なキャリア分布を仮定したドルーデモデルでよく再現できることがわかった。また、キャリア数の緩和は非常に高速(時間分解能200フェムト秒以下)であること、ダンピングが大きいこと(平均自由時間が短いこと)が明らかとなった。このような高速応答は、モット絶縁体の光誘起金属状態に特有なものであると考えられる。
|