本研究では、強相関電子系を対象とし、光励起によって伝導性、光物性、磁性が高速に変化する光誘起相転移(スイッチング現象)の開拓とその物理的機構の解明を目的として研究を進めた。主要な成果は以下のとおりである。 ○二次元的な電子構造を有するモット絶縁体である有機電荷移動錯体M_2P-F_4TCNQにおいて、超高速の光誘起絶縁体一金属転移を見出した。詳細な過渡反射スペクトルとその時間変化の測定から、光誘起金属状態の寿命は0.4ピコ秒であり極めて速いこと、金属状態は二次元的な性質を有することが明らかとなった。この様な高速の緩和は、強相関二次元系に特有のものであると解釈される。 ○一次元モット絶縁体である有機電荷移動錯体BEDTTTF-F_2TCNQ結晶において、超高速の光誘起絶縁体一金属転移を見出した。重要な結果は、非常に弱い強度の励起(分子あたり0.003光子の励起)であっても、金属的挙動が見られたことである。このような弱励起による金属的状態の生成は、強相関一次元系に特有のスピン電荷分離の性質に基づくものであると結論された。 ○強相関電子系を有する代表的な金属錯体である一次元ヨウ素架橋白金錯体において、光誘起電荷密度波(CDW)-モットハバード相転移を見出した。この転移の効率が非常に高いこと(一光子あたり約70白金サイト)、および、この系を強励起するとCDW状態から金属状態への転移が生じることを明らかにした。すなわち、この物質では、電荷密度波、モットババード、金属の三相間の相転移が可能であることが実証された。 以上のように、本研究を通して、新規光誘起相転移の開拓に成功するとともに、その機構解明を達成することができた。
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