2年間の研究期間の最終年度にあたる本年度は、C_<60>単層膜を内在したグラファイトシステムの構築とその超潤滑機構の解明を中心に研究が行われた。膨張化グラファイトを約600℃でC_<60>粉末とともに2週間ほど加熱すると、C_<60>分子を封入したグラファイトフィルムを作成できることを、前年度に報告した。C_<60>分子を内包したグラファイトフィルムは、透過電子顕微鏡観察によるとグラファイトの平面内ではC_<60>分子は最密充てん構造をとる一方、[0001]軸方向にはC_<60>単分子層が約1.3nmの間隔で積層する構造になっていることがわかった。 さらに、理論シミュレーションにより、C_<60>分子-グラファイト間に適当な相互作用ポテンシャルを適用して、層間距離dの関数として垂直荷重F_Zと全エネルギーUを計算した。グラフェン単層膜間の距離を圧縮するのに伴い全エネルギーが下がり、間隔が1.3nmのところで極小点が現れ、このとき、垂直荷重F_Zがゼロになり、安定構造となることが示された。摩擦力測定においては、驚くべきことに、水平力曲線をプロットすると100nN以下では0.1nNのノイズレベルで常にゼロを示すことがわかった。これは、静止摩擦力も動摩擦力もほぼゼロになることを示しており、グラファイト/C_<60>/グラファイト系をはるかにしのぐ潤滑性を示している。 この超潤滑現象の発現は、まず第一に、グラファイト間は平衡位置1.3nmを保ち、極めて弱い相互作用の状態でC_<60>分子という球が挟まれているという、この特異な構造に起因する。そのことが6員環や5員環という接触部位を通して、C_<60>分子の微小回転・並進運動という自由度を与え、エネルギーのより低い経路を開き、常に小さい摩擦を与えることに通じる。
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