低次元金属においては、電子--電子、電子--フォノンなどの相互作用の効果が顕著にあらわれ、密度波、超伝導などの興味深い現象が起こる。光電子分光は、一粒子スペクトル関数を直接与えることから、低次元系の物性研究における最も有効な手法の一つである。本研究の目的は、固体表面を利用して作製された1次元および2次元金属を対象として、角度分解光電子分光(ARPES)によりその電子状態を、また超高分解能電子エネルギー損失分光UREELSによりそのフォノン分散を明らかにすることにあった。これらを通して、低次元系の興味深い物性が顕著に表れる磁性、相転移などの新現象を探索し、その機構を解明することを狙った。本申請者らが発見した、金属表面電荷密度波相転移系であるIn/Cu(001)についてARPESによるフェルミオロジー、CDWギャップの温度依存性などを測定したところ、弱結合転移的な特徴が観測された。ところがこれは他のさまざまな実験事実と符合しない。そこで高輝度シンクロトロン放射光を用いた表面X線回折により臨界散乱の測定を行った。これにより得られた格子の相関長の温度変化をARPESから得られたCDW相関長と比較することを通して、この系はこれまで認識されていない強結合長コヒーレンス系に分類すべきものであることを明確にし、そのような系におけるパイエルス転移の特徴を明らかにすることができた。これが、本研究を通して最大の成果であるといえる。 この他に、数層からなるMn-Pd規則表面合金の磁性、Bi/Ag(001)表面における特異な相転移のメカニズム等について成果を得た。また、Bi/Ag(001)において、従来知られているより一桁近く大きなRashbaスピン-軌道分裂を観測し、引き続き研究を展開しつつある。
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