1.昨年度整備した電磁石および冷凍機を、放射光実験施設のX線磁気回折計(既設)に組み込んだ。新しい検出器系(高計数率型半導体検出器および新型多重波高分析器)と組み合わせることにより、X線磁気回折実験系の高度化を遂行し、磁場2T、温度6Kの新たな実験環境を立ち上げることができた。電磁石、冷凍機、検出器系(多重波高分析器)を統合して制御し、X線磁気回折の全自動測定を可能とするWindowsベースのプログラムを新たに開発した。本実験システムを用いて基礎実験を行なった結果、従来10^4cps程度以下に制限されていた測定計数率が、2x10^5cps以上の、エネルギー分散型の実験としては非常に高い計数率で行なえるようになった。以上の高度化により、本X線磁気回折実験による磁気形状因子測定が従来の1/10程度の時間で行えるようになり、測定時間の大幅な短縮化が達成された。 2.X線磁気回折実験で測定されるスピン磁気形状因子から、実空間におけるスピン密度分布を得ることが本実験の目標であるが、その解析方法として、最大エントロピー法を導入した。単結晶X線磁気回折実験データに本解析法を初めて適用した結果、正確なスピン密度分布が得られることがわかった。 3.従来の実験システムでは磁場不足のため、実験で得られるYTiO_3のスピン密度分布が2次元投影図に限定されていた。本年度は1.の高度化により、従来不可能であったYTiO_3のb軸方向へ磁化させる実験が可能となり、実測スピン密度の3次元可視化が現実のものとなった。来年度は、実測される3次元スピン密度分布を基にしたTi-3d電子の基底状態解明を目指す。
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