研究概要 |
本研究では、レーザー冷却し磁気光学トラップに捕獲された準安定状態ヘリウム原子のシリコン表面における量子反射の実験的研究を行っている。 平成17年度に、準安定状態ヘリウム原子の量子反射率は、表面を回折格子状に加工したシリコンでは平面に比べ2桁高くなることが示され、用いたサンプルでは、格子状表面における原子波のフレネル回折現象として説明することが出来た。 今年度は下記の実験を行った。得られた結果を投稿中のものと引き続き研究中のものとがある。 1)表面構造を利用した反射型回折格子による回折の検出 溝状構造のある領域と平面の領域が交互にピッチ0.5mmの格子状に加工されたシリコン表面の反射を測定した。正反射された原子の他に1次回折原子が観測されたが、平面部分で反射率が低いため利用できる原子数は少ない。位相格子に相当する溝のピッチが異なる表面構造を作り反射を測定したが、回折効率は非常に低い。 2)磁場によるスピン偏極ヘリウムビームの集束実験 固体表面プローブとして低速ヘリウムビームを用いるためには、直径の小さい偏極ビームが望ましい。このための予備実験として、原子が落下する経路に一様磁場をかけて偏極ビームを生成し、途中に1対の導線を張り電流を流すことにより不均一な磁場を生成して1次元集束を行った。導線に4.5Aの電流を流しトラップから113cm下方において、直径7mmのビームを1/8に集束することが出来た。このサイズは原子源である磁気光学トラップの大きさと、磁気レンズの収差による。 3)回折格子構造のピッチ、溝の形を変えたサンプルによる反射実験 シリコン表面の溝の間隔L=3,6,100μm、溝断面の形が屋根型と長方形の2種類について、溝の頂上の幅dを変えた5種類のサンプルについて測定を行った。d/Lの値が1/100の場合、反射率はフレネル回折による計算と一致するが、値が大きくなるとフレネル回折では説明できなくなり、ファンデアワールスポテンシャル係数がd/Lだけ小さい平面からの反射として説明できることが解った。
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