多重散乱媒質中を伝播した光にはさまざまな相関が存在する。本研究の目的は、多重散乱媒質を伝播する光に現れる揺らぎの相関を解明し、その応用として永続的ホールバーニングについて実験を展開することである。 平成18年度は、これまでの実験結果について先行している理論解析との比較を行った。すなわち、光反応物質としてスピラピロン系のフォトクロミック色素を含んだ多重散乱媒質において、[1]媒質の平均自由行程、[2]吸収、[3]幾何学的特性(反射型観測、透過型観測など)、[4]サンプルの境界条件、などを系統的に変化させた実験結果と拡散近似に基づいた理論と比較し、よい一致を得た。また、これらの成果をもとに、酸化チタンの微粒子をセラミック状に焼結した試料に光反応性薄膜をコーティングした試料を作製し、平均自由行程が小さく、吸収の少ない理想的なサンプルを用意し、世界で最も狭い室温周波数ホールバーニングの実現を進めた。このとき、科研費にて購入したNd3+YAG DPSS (Diode Pumped Solid State)単一モード波長可変レーザーを使用した。現在までに、500MHz程度の超狭帯域ホールの観測に成功している。多重散乱媒質を伝播した光は、極めて長い経路を伝播しており、このことが入射周波数に対してホールが高い周波数選択性を持っていることのメカニズムになっている。この効果は周波数多重光メモリー等への応用の可能性を持っている。
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