研究概要 |
電子衝突により発現する分子の共鳴状態は分子ポテンシャルにより一時的に電子がトラップされる形状共鳴と一時的な電子励起をともなうFeshbach共鳴とに大別される。軟X線領域の光子衝突で観測される分子の内殻吸収スペクトルもまた、しきい値の上では形状共鳴に支配される。ここでいう形状共鳴は光電子が分子ポテンシャルに一時的にトラップされた後に出ていく現象であり、低エネルギー電子衝突で見られる形状共鳴と本質的に同じ現象である。本研究では、形状共鳴における角運動量移行と電子放出に伴う振動励起・電子励起の機構を解明して少数多体問題としての形状共鳴の本質を明らかにするとともに電子と核の運動との結合による断熱近似の破れを実証することを目指している。この目的を達成するために、16年度はCO,H_2CO,CO_2,N_2O、H_2Oといった基本的な分子を対象として、低エネルギー電子衝突実験を上智大学で遂行すると共に、放射光共同利用施設SPring-8における共同利用実験により内殻光電子分光と光電子イオン同時計測とをおこなった。 1.低エネルギー電子衝突実験(上智大学):現有装置の改良、高分解能化、計測系の高度化を進め電子衝突実験をH_2O,c-C_4F_6といった分子で行い低エネルギーに現れる形状共鳴の観測に成功した。 2.高分解能内殻光電子分光実験(SPring-8):形状共鳴エネルギー領域におけるイオン芯の振動励起の探索でCO,CO_2,N_2O分子の内殻光電子(メインライン)の角度分解分光を行い、各振動成分の部分断面積と非対称パラメーターとを光子エネルギーの関数として決定した。 3.光電子-イオン同時計測装置の高分解能化(SPring-8):現有の光電子-イオン同時計測装置の電子エネルギー分解能の高精度化のため、分子線のサブミリ化とTDCの高分解能化をはかり、電子のエネルギー分析の分解能を一桁あげることを試た。 これら結果を論文、国際会議等で成果を発表した。
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