研究概要 |
昨年度と同様に、形状共鳴状態の崩壊ダイナミックスの精密測定を進めた。 電子衝突により発現する分子の共鳴状態は分子ポテンシャルにより一時的に電子がトラップされる形状共鳴と一時的な電子励起を伴うFeshbach共鳴とに大別される。軟X線領域の光子衝突で観測される分子の内殻吸収スペクトルもまた、閾値の上では形状共鳴に支配される。この形状共鳴とは光電子が分子ポテンシャルに一時的にトラップされた後に放出される現象であり、低エネルギー電子衝突に見られる形状共鳴と本質的に同じである。本研究では、形状共鳴における角運動量移行と電子放出に伴う振動励起・電子励起の機構を解明し少数多体問題としての形状共鳴の本質を明らかにすると共に電子と核の運動との結合による断熱近似の破れを実証することを目指した。 今年度はN_2,O_2,CO,H_2Oといった基本的な分子以外にCH_4,C_2H_2,C_2H_4,C_2H_6,F_2CO,C_3H_6,C_3F_6等のプロセス関連多原子分子を対象とし、低エネルギー電子衝突実験を上智大学で遂行すると共に、放射光共同利用施設SPring-8における共同利用実験により内殻光電子分光と光電子-イオン同時計測を行った。また加熱分子による内殻吸収スペクトルの観察に世界で初めて成功しPRLに発表した。 1.低エネルギー電子衝突実験(上智大学):前年度改良した分光系を用い、F_2CO,C_3H_6,C_3F_6の低エネルギー電子衝突実験を行い形状共鳴の観測に成功し、また閾値近傍でのCH_4からの中性解離種CH3ラジカルの計測に成功した。 2.高分解能内殻光電子分光実験(Spring-8):形状共鳴エネルギー領域におけるイオン芯の振動励起の探索のため内殻光電子分光をC_2H_2,C_2H_4,C_2H_6について行い、各振動成分の部分断面積と非対称パラメーターを決定した。今年度は加熱CO_2,N_2Oからの内殻吸収スペクトルの測定にも成功し、振動励起と共鳴性内殻励起との関係を明らかにした。 17年度研究成果は欧文論文20編、また国際会議30件(招待講演5件)として報告された。
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