研究概要 |
低エネルギー電子衝突により発現する分子の共鳴状態は、分子のポテンシャルにより一時的に電子がトラップされる形状共鳴と一時的な電子励起を伴うFeshbach共鳴とに大別される。軟X線領域の光子衝突で観測される分子の内殻吸収スペクトルもまた、閾値の上では形状共鳴に支配される。この光子衝突に見られる形状共鳴とは光電子が分子ポテンシャルに一時的にトラップされた後に放出される現象であり、低エネルギー電子衝突に見られる形状共鳴と本質的に同じ現象である。本研究では、低エネルギー電子衝突における形状共鳴と内殻光イオン化における形状共鳴をより高分解能で系統的に研究することで、そのダイナミクスの全貌を解明することを目的とする研究を計画した。この目的を達成するために、N_2,O_2,CO, H_2O, CO_2の基本的な分子からプロセスに関連した分子までを対象として、低エネルギー電子衝突実験を上智大で遂行するとともに、放射光共同利用施設(財)高輝度光科学研究センター(SPring-8)における共同利用実験により内殻光電子分光と光電子一イオン同時計測とを遂行した。 内殻イオン化状態と基底状態を比べるとクーロンポテンシャルは異なるが、価電子の電子配置は等しいことから、電子散乱と内殻光イオン化で生成する形状共鳴の対称性とエネルギー、振動励起、電子励起を共通の分子を用いて比較することで、当該研究期間に多体問題としての形状共鳴の本質を明らかにするとともに、電子と核の運動との結合による断熱近似の破れを実証することに成功した。 当該研究期間において、欧文論文59編、また国際会議49件(招待講演9件、一般講演40件)として報告された。
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