研究概要 |
紅色光合成細菌の色素・タンパク複合体のひとつ、LH2複合体について、X線結晶構造は円であるが、ミセル中での単一分子分光の結果は楕円であった。LH2の構造が環境に敏感であることを示しているので、できるだけ天然に近い状態で一個一個の複合体の分光を行うために、透析によってミセル中のLH2を脂質膜中に導入した。脂質にはdimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)を用い、DMPC:LH2=50,000:1のモル比でLH2を脂質膜中に孤立させることができた。天然の状態に近い脂質二重膜の中でLH2がどんな構造を取るのかを調べるために、B850バンドのk=±1の2本のピークのエネルギー差δE_1のヒストグラムを作り、ミセルの場合と比較した。データ数がまだ少ないが、脂質中とミセルとでは分布のパターンが異なるようである。統計数を増やすことが今後の課題である。 タンパク質の安定構造は無数にある。室温ではそれらの間を絶えず移り変わっているが、1.5Kではポテンシャル障壁を越えられないため、ほぼ一つの構造に固定されている。1.5Kから温度を上げていくとスペクトルが変化し始めるだろう。9個の独立したBChl a分子の吸収線の集まりであるLH2のB800バンドについて、5〜40Kの範囲で同一の複合体のスペクトルを測定した。典型的には温度とともに各分子の吸収線の動きが活発になる。一種類の構造変化に別の種類の構造変化が重なって同時に起こるのがしばしば見受けられ、ポテンシャルの多次元性や階層性を反映している。スペクトル全体の大きな変化も時折起こる。このとき複数の色素分子の吸収波長が同時に変わるので、この構造変化は一個の色素だけに影響を及ぼす局所的な変化ではなく、タンパク質の大きな範囲で起こる共同的な構造変化である。
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