紅色光合成細菌の光捕集色素・タンパク複合体LH2について、ヘリウム温度で単一分子分光を行って構造情報や会合体におけるエネルギー移動を調べる研究を昨年度に引き続き行った。ミセル中での単一分子分光の結果を受けてより天然に近い環境として脂質二重膜中での測定に移っている。脂質膜中のLH2単体の構造や低温でのゆっくりとした自発的構造変化を調べたほか、LH2会合体の中でのエネルギー移動についても測定の準備を始めた。 昨年度より続けている脂質膜中のLH2単体の構造と構造変化の測定では、励起光カットのフィルターの最適化などにより感度が約3倍向上した。その結果液体ヘリウム温度でレーザー光の影響でタンパク質の構造変化が起きないレベルまで励起光強度を下げて測定できるようになった。LH2の構造については脂質膜中でも円ではなく平均的に歪んだ構造が基本になっていることが明らかになった。構造パラメータとして用いている縮重励起子準位の分裂幅の分布はミセルの場合とは統計的に異なっているが、実際の構造の差異までは議論できなかった。低温における構造の自発変化については、タンパク質ごとの個体差が大きく、一個の個体の5Kから10Kの温度変化を上回るほどであった。タンパク質のポテンシャルエネルギー面に関する情報を引き出すにはもう一工夫が必要である。 会合体のエネルギー移動については、光退色(ブリーチング)による脂質膜断片中の会合数の決定、動的光散乱による膜断片の大きさの決定の実験を準備している。
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