研究概要 |
本研究では構造ガラスの代表である高分子ガラスを対象として,そのガラス状態での非平衡緩和現象を明らかにすることを目的とする.具体的には,ランダム系で見られるエイジング,若返り現象,メモリー効果の有無,その特徴を明らかにし,高分子ガラスで見られる履歴現象のスピングラスなどのランダム系との相違点,類似点を明確に抽出し,ランダム系の履歴現象の分類を可能とする.このような解析を通して,これまでスピングラス系で成功を収めている様々な理論的なモデルの構造ガラスへの適用の可能性を明らかにする.本年度は昨年度の成果を踏まえ、新たに構築した種々の感受率測定が可能な測定システムを用い、ガラス状態でのエイジング過程において、誘電率、体積のエイジング温度・時間依存性を調べた。以下に本年度の成果を列挙する。 1)ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のガラス状態において、スピングラスにおいて開発された温度プロトコルである、Twin-Temperature shift'を用いた実験を行った。その結果、PMMAのような高分子系においてもスピングラスと同様に、non-accumulativeなエイジングから、accumulativeなエイジングへのクロスオーバーが生じていることが明らかとなった。 2)ポリスチレン(a-PS)のガラス状態において、等温度エイジングを行ったところ、複素電気容量の実部は時間とともに増加し、虚部は時間とともに減少することが観測された。この結果はPMMAの等温エイジングの場合とは異なる結果であった。これに対して、理論的な考察を行うことにより、複素電気容量実部の増加はエイジングに伴う膜厚の減少に由来しており、虚部の減少は誘電率の低下に由来していることが明きらかとなった。この事実より、a-PSでは複素電気容量の測定により、誘電率のエイジングによる減少と、体積のエイジングによる減少を同時に評価することが可能となった。
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