研究概要 |
地震実体波は、波線の最深点付近の構造の情報を豊富に持っており、トモグラフィーモデルでは解像力のない微細構造の解析が可能であるという特典を生かし、沈み込み帯の遷移層から下部マントルにかけての構造を強くサンプルした広帯域波形解析を行った。スタグナントスラブ近傍をサンプルした波形のうち、局所的に特異な複雑波形が観測され、これらは高温・高圧物性から推測されているマントル遷移層最下部付近の(スラブの存在による温度擾乱も含め)構造や組成の複雑さに対応するものと思われる(田島・他、2004;Tajima and Nakagawa,2004). 一方、地震学的解析によるスナップショットに基づき、マントル遷移層以深に沈み込んでいくスラブの挙動の違いがどのような物理条件(温度・粘性率・密度・強度)によって引き起こされるかに関し、数値シミュレーションを行った.具体的には、深さ660kmでの粘性率の急激な変化、スタグネーションと海溝の後退、410kmおよび66Okmでの相転移、相転移によるスラブ内構成物質の粒子サイズの細粒化などの影響について調べた.下部マントルへのスラブの沈み込みが妨げられると海溝が海側に後退し、スタグナントスラブ形成の可能性があること、又、レオロジーパラメータの影響を詳細に解析することにより、プレートの沈み込み開始を左右するもっとも重要なパラメータは、プレート境界の強度であることなどを示した(Tagawa et al.,2004a, b). 又、沈み込むスラブに伴う温度分布の数値計算を行う目的で、インド・オーストラリアプレート-ユーラシアプレート境界上の16箇所の地点で、Sella et al.(2002)によるグローバルなプレート運動モデルであるREVELに基づき、プレートの相対運動速度ベクトルを計算した.各地点で、速度ベクトルの方向に沿った鉛直断面に地震波トモグラフィの結果と再決定された震源分布をプロットし、沈み込むプレートのおおまかな形状を把握した.
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