研究概要 |
スタグナントスラブ近傍をサンプルした地震実体波形のうち,局所的に特異なコーダ状に拡がったP波形が観測されることがあるが,これらは深発地震近傍(100数十キロ以内)でSV波からP波に変換したものと思われる(Tajima and Nakagawa, GRL,2006).ポアソン比(σ)の異なる層構造でこのような変換波が現れる条件をテストすると,σ=0.35〜0.4でS波の約10%の変換P波が現れることが分かった.この変換P波は、直達P波とほぼ同程度の振幅を持ちうるので,コーダ状に拡がったP波形の成因として考えることは妥当と思われる.局所的にこのような異常を示すゾーンが存在することは,マントル遷移層最下部付近でスラブの存在による低温異常と水を含む相転移の複雑さによって引き起こされるものと思われる(田島・他、地震,2005). 一方、マントル遷移層以深に沈み込んでいくスラブの挙動の違いがどのような物理条件(温度・粘性率・密度・強度)によって引き起こされるかに関し、引き続き数値シミュレーションを行い,下部マントルへのスラブの沈み込みが妨げられると海溝が海側に後退し、スタグナントスラブ形成の可能性があること、又、プレートの沈み込み開始を左右する重要なパラメータは、プレート境界の強度であることなどを示した(Tagawa et al.,2006a, b). 又,千島・日本海溝及び伊豆小笠原海溝に沿ったプレート境界で、グローバルなプレート運動モデルであるREVELに基づき、プレートの相対運動速度ベクトルを計算した。各地点で、相対運動速度ベクトルの方向に沿った鉛直断面にFukao et al.(2001)による地震波トモグラフィの結果をプロットしその結果を参考にして、差分法を用いた熱と流れのシミュレーションにより、海洋プレートの年齢、沈み込み速度、沈み込み角を変えながら、海洋プレート及びスタグナントスラブの温度分布の推定を行った。最近高温高圧実験によって得られた知見を考慮し、以前作成を行った温度・圧力依存の各種弾性パラメターの改訂版の作成にも着手した。
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