研究概要 |
広島大学のグループは、広帯域地震波形解析により沈み込んだスラブに伴ったマントル遷移層の構造の多様性を明らかにしたが、今年度はスタグナントスラブ形成メカニズムの物理的な背景を解明する数値シミュレーションに焦点を置いて研究を遂行した。プレート速度の拘束条件を与えない沈み込みの2次元動力学モデルを開発し、660kmでの相転移、上部・下部マントル境界での粘性率のジャンプ、相転移後の結晶の細粒化による粘性率の低下などが、マントル遷移層でのスラブの挙動にどのような影響を及ぼすかを系統的に調べた。660km相転移での負のクラペイロン勾配の値を高圧実験に基づき-3,-2,-1MPa/Kと見積もり、粘性ジャンプは10倍、又は30倍を採用、又、細粒化による粘性率の低下が起こる範囲はスラブの中心部のみの場合とスラブ全体の場合を考慮した。シミュレーションの結果、海溝後退、およびスラブと660km相境界との相互作用が、マントル遷移層でスラブの形状を支配する重要なメカニズムであることを明らかにした。地震学的に予測されるクラペイロン勾配(-3MPa/K)でもスタグナントスラブが形成されるが、660km境界をはさんだ粘性ジャンプは、相転移による浮力の効果を相対的に強めるためぐ高温・高圧実験で得られているやや緩いクラペイロン勾配(-2MPa/K)でも、スタグナントスラブが形成されることが分かった。 九州大学のグループは、異なった方法で2次元モデルを構築し、海溝後退速度、上部・下部マントルの粘性率コントラスト、クラペイロン勾配、沈み込み角度などをパラメータとした熱と流れの数値シミュレーションを行った。その結果、粘性によりスラブを支える力とクラペイロン勾配によって生じる浮力の組み合わせにより、スタグナントスラブが形成されることを明らかにし、海溝後退がスタグナントスラブ形成に果たす役割を明確に示した。また、マントル遷移層での海洋地殻とスラブ本体の振るまいを解明するため、2次元数値モデルで、CIP法を用いて海洋地殻をトレースし、海洋地殻の密度変化、相転移、粘性変化を扱えるモデルの構築を行った。
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