研究概要 |
トモグラフィーモデルで遷移層付近に広がって見える高速度異常は、沈み込んだスラブが滞留したスタグナントスラブ(SS)と考えられるが、当研究ではこの構造を強くサンプルした広帯域地震実体波形データを解析し,SSを含む遷移層の構造不均質性やスラブの挙動の多様性がどのような物理的背景を持っているかを探った。又、数値シミュレーションを用い、推測した物理的背景やモデルを検証した。SSの存在で遷移層下部に高速度異常と660km不連続面の下降(690kmまで)を伴った領域(モデルM3.11)は、遷移層下部に高速度異常はあるが、不連続面の下降は伴わないゾーン(M2.0)に囲まれている。これらの構造は、含水鉱物の物性の違いとして考えると、低温スラブに付随した現象として統一的に捉えることができることが分かった。又、これらの構造のごく近傍をサンプルしたP波で,たまにコーダ状の異常なbroadeningを起こしている波形が見つかることがあり,低温異常のみでは説明がつかない。対応するSH波には,異常は見られずP波のbroadeningはまれにしか見つからないことから,震源近傍(〜130km)にSV-P変換を起こすごく局所的な異常ゾーンがあることを示唆している。九州大学のグループは、SSの形成過程を解明するため、断熱圧縮、粘性散逸、海溝後退の効果を従来の熱と流れの2次元数値モデルに取り入れた。このモデルを用いて、パラメターのテストを行い、SSの形成に及ぼす素過程の果たす役割を明確に示した。海洋地殻の物性(密度・粘性変化)を取り込んだ2次元数値モデルと任意形状のスラブ沈み込みに伴う温度分布の計算手法を開発し、レシーバー関数、トモグラフィーによって地震波速度構造が明らかにされている日本列島を縦断する断面に沿って温度計算を行い、660km不連続面の沈降量を説明する試みを行った。
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