研究概要 |
東シナ海の大陸棚斜面の黒潮直下では,海底付近で強化された反流-大陸棚斜面反流(以下,斜面反流)-がしばしば観測される。しかし,この反流の持続性や東シナ海全体での空間的広がりは,これまで調べられてこなかった。一方,黒潮直下の反流は四国沖でも観測されることから,斜面反流は西岸境界流に付随する基本的特徴の一つと考えられる。つまり,斜面反流の持続性や空間的広がりを明らかにすることは,斜面反流という未解明の現象の解明にとどまらず,西岸境界流のより普遍的な理解につながる可能性がある。 2004年11月から2006年11月まで,約27〜29°Nの大陸棚斜面域(水深約700m)の4地点で,係留流速計を海底上200mと100mに設置した。また,係留観測以外に,年1回の頻度で斜面反流を横切る複数の観測線上で水温・塩分・流速断面分布を測定した。取得観測資料は,同期間のトカラ海峡での黒潮流軸位置指標の時系列と合わせて解析した。主要な観測結果は,以下のとおりである。 1)斜面反流は,中部と北部陸棚斜面域で異なる特徴をもっていた:斜面反流が存在する深度は,中部陸棚斜面域の方が北部陸棚斜面域よりも深かった。両海域の境界は,表層の黒潮が大陸棚斜面から剥がれてトカラ海峡へ向かう剥離点の気候学的平均位置に一致していた。 2)特に中部陸棚斜面域では,冬から春にかけて4〜5ヶ月の期間にわたり持続的な斜面反流が形成されるという季節性が認められた。このとき,周期20日以下の黒潮前線波動に由来する擾乱は沈静化した。 3)中部陸棚斜面域での冬から春にかけての持続的な斜面反流は,九州南西沖での黒潮の大規模な流路変動と同期して形成されていた。 これらの観測事実に基づいて,中部と北部陸棚斜面域での斜面反流の時間空間分布像を提案するとともに,それらの形成メカニズムを推測した。
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